井蛙堂備忘録

医学的備忘録としてのブログ

虚血性心疾患

虚血性心疾患の分類

(1)慢性冠動脈疾患

 (a)労作性狭心症:労作時胸痛。3-5分程度。

 (b)異型狭心症(冠攣縮性狭心症):安静時胸痛。夜間~早朝。

(2)急性冠症候群(Acute Coronary Syndrome, ACS)

 (a)不安定狭心症:安静時胸痛。最近3週以内に出現or増悪傾向。

 (b)急性心筋梗塞(Acute Myocardial Infarction, AMI):20分以上の激烈な胸痛。

  ※胸痛が1分を切るような場合は逆に虚血性心疾患の可能性が下がる。

  ※胸痛の場所は指では指し示すことはできない。ここらへんという感覚。

 

<症状>

労作性狭心症の自覚症状 -SAVENS-

・S:Sudden onset (突然発症)

・A:Anterior chest pain (前胸部痛)

・V:Vague sensation (漠然とした不快な前胸部圧迫感)

・E:Effort participation (労作による誘発)

・N:Nitroglycerin effective (硝酸薬が有効)

・S:Short duration (短時間の胸痛)

 

<検査>

ST変化

・上昇:貫壁性虚血。異型狭心症、AMI(=ST上昇型ACS)

    心電図の誘導から、局在診断が可能。対極では鏡像変化も。

    1mm上昇でST上昇と見なす。

・低下:非貫壁性虚血。労作性狭心症、不安定狭心症(非ST上昇型ACS)

    局在診断してはならない。どこの内膜の虚血でも低下は起こりうる。

    上昇型のST低下は頻拍でも生じ、ST低下とは見なさない。

    1mm低下でST低下と見なす(下降型ST低下、水平型ST低下)。

 ※異型狭心症では大きな血管が攣縮して虚血になるため貫壁性変化となる。

 ※ST上昇を来す鑑別疾患:心膜炎、左心肥大、左脚ブロック、心室瘤、高K...

 

STEMIと非STEMI

心筋梗塞(MI)は「STが上昇するMI(STEMI)」と「上昇しないMI(NSTEMI)」がある。

・STEMI:虚血時間が短く、再灌流療法が施行される。(PCI, 血栓溶解, CABGなど)

・NSTEMI:適応に応じてPCIやCABG、もしくは内科的治療。

 ※STEMI=ST segment Elevation Myocardial Infarction

 

AMIバイオマーカー「見張っとく気ある?」

・見:ミオグロビン。1-2時間で上昇

・張っ:白血球。2-3時間で上昇

・と:トロポニンT。3-4時間で上昇。

・く気:CK。3-4時間で上昇。

・あ:AST。6-12時間で上昇。

・る:LDH。12-24時間で上昇。

 ※CRPは上昇に1日はかかる(AMIに限らない)。

 ※H-FABP:ヒト心臓由来脂肪結合蛋白。迅速検査キットあり。2-4時間で上昇。

 

運動負荷試験

・ 不安定狭心症には禁忌

・マスターダブル:シングルは1分30秒。ダブルは3分。トリプルは4分30秒。

         マスターダブルで4-5 METs程度となり日常動作相応の負荷。

         (マスターはMasterさんが考案したというだけで意味はない)

         運動中は心電図を記録しないので危険性も伴う(記録は運動直後)。

トレッドミル:運動しながら12誘導を測定しているので安全性が高い。

 ※ホルタ―心電図は12誘導でなく、結果が出るのに数日かかるため向いていない。

 

<治療>

PCI (経皮的冠動脈インターベンション)

・狭窄した冠動脈をバルーンやステントで拡張する。

・ステントは、薬剤溶出性(Drug Eluting Stent, DES)とベアメタルステント。

・禁忌:3枝病変、左冠動脈主幹部(LMT)病変

 

AMIの初期治療 -MONA-

・M:塩酸モルヒネ (i.v.)→鎮痛、鎮静(O2需要量低下)

・O:酸素投与

・N:硝酸薬 (舌下、i.v.)

・A:アスピリン (咀嚼)

 

2次予防的治療 (冠動脈疾患の既往患者に対する治療)

脂質異常症:スタチン、陰イオン交換樹脂、フィブラート系、EPAなど。

   [管理目標] LDL-C < 100 mg/dl、HDL-C ≧ 40 mg/dl、TG < 150 mg/dl

・抗血小板薬:アスピリン、チエノピリジン系(プラスグレル、チクロピジン、クロピドグレル)。

・降圧薬:特に縛りはない。腎/心保護を考えればACEI/ARBから使用する。

   ※心筋梗塞既往患者に対しては、ACEI/ARB、βブロッカーの使用になる。

   ※心筋梗塞既往患者では、SBP130mmHg以下/DBP80mmHg以下にする。

・糖尿病薬:αGI(血糖の変動を抑えられる)、ビグアナイド系、チアゾリジン系。

   [管理目標] HbA1c 合併症予防には7.0%未満、治療強化困難例には8.0%未満。

   ※インスリン、SU薬は血糖値を下げることが出来るが、長期的には不適。

   ※DPP-4阻害薬、SGLUT2阻害薬は新しく、エビデンスはまだない。

   ※冠動脈疾患は、低血糖を防ぐことが大切 (低血糖発作でイベント↑)。