COVID19とGBS?
Guillain-Barré syndrome associated with SARS-CoV-2 infection: causality or coincidence?
Hua Zhao et al, April 01, 2020, The Lancet Neurology
DOI:https://doi.org/10.1016/S1474-4422(20)30109-5
https://www.thelancet.com/journals/laneur/article/PIIS1474-4422(20)30109-5/fulltext
雑感
・こちらの記事より早く出されていたものを見つけました。
・筆者いわく「the first case of COVID-19 initially presenting with acute Guillain-Barré syndrome」
・GBS発症後8日で発熱や咳嗽あり、COVID19の診断となった。
・時系列的にはCOVID19の方が後なので、先行感染ははっきりしない。
・抗ガングリオシド抗体なし。
・総合的に判断すると、COVID19関連GBSというより、SARS-CoV-2による神経障害疑いの方がしっくりくる。COVID19によるGBSではない可能性が高い。
・「Causality or Coincidence?」ということで、原因結果というよりは、たまたまGBSとCOVID19を合併した可能性もある。
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○病歴
・61歳女性
・2020年1月19日に武漢へ帰省したが発熱や咳嗽、胸痛、下痢などはなかった。1月23日になって、急性の下肢脱力と倦怠感が1日で進行したため病院を受診した。
○身体所見
・発熱はなく、体温は36.5℃、SPO2 99%, 呼吸回数16回/分。
・神経診察では両下肢の対称性脱力(MRC grade 4/5)と腱反射消失を認めた。
・入院後3日で症状は増悪し、上司は4/5, 下肢は3/5まで進行。感覚は触覚と痛覚で低下。
○検査
・血液検査:リンパ球減少(520/μL), 血小板減少(11.3万/μL)
・髄液検査:細胞数上昇なし、髄液蛋白上昇(124mg/dL)
・神経電動検査:遠位潜時の延長とF波の消失あり。脱髄性神経障害疑い。
○経過
・上記症状よりGBSと診断し、IVIGを施行した。
・入院第8病日(2020年1月30日)に咳嗽と38.2℃の発熱を認め胸部CTですりガラス影を両側で認めた。鼻咽頭検体でSARS-CoV-2のPCR陽性となった。
・COVID19の診断で感染隔離を行い、arbicol, lopinavir, ritonairの投与を行った。
・治療開始後、症状は改善傾向を認め、リンパ球や血小板は入院第20病日で正常化した。入院第30病日には筋力が改善し、腱反射も正常となった状態となり、退院となった。退院時のPCR検査は陰性であった。
COVID19関連ギラン・バレー症候群
Guillain-Barre syndrome Associated with SARS-CoV-2
Gianpoalo T, et al. April 17, 2020, NEJM
DOI: 10.1056/NEJMc2009191
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2009191
雑感
・COVID19でもギランバレー症候群(GBS)になるようです。
・5例のまとめと少ないですが、症状は重篤で軸索型が多い様子。抗ガングリオシド抗体が出ていませんが、検査項目が少なく、他の抗体は上がるかもしれません。
・入院時にCTで肺炎像がある症例も多く、GBSの呼吸不全かCOVID19の呼吸不全か難しいかもしれませんね。また、重篤な場合はICU関連weaknessなどの鑑別が重要となります。
・5例中1例はPCR陰性でしたが、血清IgGで評価しています。Snibe Diagnosticsの試薬(Maglumi 2019-nCoV IgM/IgG kit)を使用しているようです。
・電気生理学的所見をみると、振幅は殆ど低下しているような。軸索メインでやられるのかもしれません。
・今後もう少しまとまった症例報告が出てくると予想されます。
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○概要と病歴
・5例のCOVID19関連ギラン・バレー症候群の症例。
・2020/2/28-3/21までに入院したイタリア北部の3つの病院。1000-1200人のCOVID19患者が入院していた。
・4例で鼻咽頭PCRが陽性となり、1例は鼻咽頭および喀痰は陰性であったが血清学的検査で陽性となった。
・初発症状は4例で下肢脱力と異常感覚、1例では失調に続く顔面の両麻痺と異常感覚であった。
・4例で36時間から4日間に四肢麻痺が進行し、3例で人工呼吸器を要した。
・COVID19の症状から5-10日でGBSの症状が出現していた。
・自律神経症状を認めた患者は居なかった。
○検査
・髄液検査では2例で正常蛋白、全患者で細胞数は5/μl未満であった。
・抗ガングリオシド抗体は検査した3例では検出されなかった。(検査された抗体は、GM1, GQ1b、GD1bの3種類のみ)
・髄液検査のPCRはすべて陰性であった。
・電気生理検査では、CMAPの低下を認めていた。2例では運動神経の遠位潜時延長を認めた。針筋電図検査では当初3例で線維自発電位(fibrillation potential)を認めたが、最初は検出できなかった症例でも12日目の検査で確認できた。これらの結果からは、3例が軸索型と考えられ、2例が脱髄型と思われた。
・造影MRIでは馬尾神経の造影を2例で認めた。1例は顔面神経の造影効果を認め、2例では造影効果を全く認めなかった。
○治療と転帰
・すべての患者がIVIGを受けた。2例はIVIG2コース目に突入し、1人は血漿交換まで施行した。治療4週間後の段階で、2例はまだICUでの人工呼吸管理が必要であった。2例は麻痺が強く、リハビリテーションへと移行した。1人は歩行可能となり退院した。
○考察
・先行感染後5-10日でのGBS発症は他の感染症と類似している。多くの感染症がGBSと関連しているが、特にCampylobacter jejuni, EBV, CMV, ジカウイルスで多い傾向にある。コロナウイルス感染症とGBSの関連性を指摘する報告はいくつか存在する。
・5例の症例報告では、重度の症状や軸索型のGBSがCOVID19に関連する典型的症状かどうかはわからない。
・呼吸状態の悪化がGBSによる神経筋障害による肺活量の低下によるものかは断言できないが、胸部画像で呼吸不全に至るような重症な病変は認められない場合は考慮する必要がある。
・また、COVID19関連GBSはcritical illness neuropathy and myopathyと区別する必要がある。
COVID19と神経合併症
JAMA Neurol. Published online April 10, 2020. doi:10.1001/jamaneurol.2020.1127
https://jamanetwork.com/journals/jamaneurology/fullarticle/2764549
COVID19の神経合併症に関して、武漢214例の報告。
浮腫の鑑別 -The differential diagnosis of edema-
浮腫の鑑別
・浮腫:顔や手足などの末端が体内の水分によって痛みを伴わず腫脹する症候。
・分類:全身性浮腫と局所性浮腫。圧痕性浮腫(pitting edema)と非圧痕性浮腫(non-pitting edema)
圧痕の有無
・圧痕性浮腫:心不全、ネフローゼ症候群、肝硬変、薬剤性など。
・非圧痕性浮腫:甲状腺機能低下症による粘液水腫、リンパ水腫、好酸球性血管性浮腫など。
圧痕性浮腫におけるFast or Slow
・10秒間5㎜の深さで押した後の回復時間による分類。
・Fast edema:回復時間が40秒未満。一般に低アルブミン血症(2.5g/dL以下)によるもの。
・Slow edema:回復時間が40秒以上。
鑑別のまとめ
機序 | Slow or Fast | 全身 or 局所 | 疾患 |
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①毛細血管圧の上昇 | Slow | 全身 | 心不全、肺水腫、腎不全、静脈閉塞、薬剤性、飢餓後栄養開始時、妊娠、月経前浮腫、特発性浮腫 |
局所 | 静脈閉塞 | ||
②低アルブミン血症 | Fast | 全身 | 肝硬変、低栄養、ネフローゼ症候群、蛋白漏出性胃腸症、悪性腫瘍、感染症 |
③血管透過性亢進 | Slow | 全身 or 局所 | 血管炎、炎症、アレルギー、血管性浮腫、熱傷 |
④間質の浸透圧上昇、リンパ管閉塞 | non-pitting | 全身 | 甲状腺機能低下症 |
局所 | 悪性リンパ腫、癌のリンパ節転移、リンパ節廓清手術後、フィラリア症 |
慢性期意識障害(植物状態など)
遷延性意識障害:persistent vegetative state(遷延性植物状態)
・覚醒しているが、外界に順応した反応が欠如している。
・意思の疎通であるところの精神活動を行っている徴候が認められない状態。
・基準:
①自発呼吸可
②全身状態良好
③糞尿失禁
④睡眠・覚醒のサイクルが保持
⑤寝たきり
⑥経管栄養
上記、6項目が1か月-3か月以上認められるもの。
※「植物状態」という言葉は医学的には曖昧な表現である。
※日本救急医学会「遷延性意識障害とは,疾病・外傷により種々の治療にもかかわらず,3か月以上にわたる,①自力移動不能,②自力摂食不能,③糞便失禁状態,④意味のある発語不能,⑤簡単な従命以上の意思疎通不能,⑥追視あるいは認識不能の6項目を満たす状態にあるものをいう(脳神経外科学会1976)。慣習的に植物状態ともいう」
最小意識状態:minimally conscious state
・遷延性意識障害患者において、再現可能か持続性の点から限られているが、部分的に自己または周囲を認識しているという行動上の根拠が最小ではあるが確実にある状態。
①単純な指示に従う
②身振りや言葉で「Yes、No」を示す
③理解可能な発語
④刺激による喜怒哀楽の表出などが可能
・古くは不完全植物症と言われ、植物状態の一部とされていたが、予後などの観点から、今では別の概念として分かれている。
閉じ込め症候群:“locked-in”syndrome
・四肢麻痺および無言を来した状態。
・障害経路は、両側錐体路および下部脳神経。
・障害部位は、被蓋を含まない腹側橋部、延髄。
・原因は、脳底動脈閉塞による橋梗塞などによる。
・随意に動かせる身体部位は眼球の上下運動と瞬きだけになる。
・あくまでも本症は運動障害であり、内的な意識はほぼ完全に保たれている。
・内的な意識が保たれているため、植物状態とは異なる。
無動性無言症:akinetic mutism
・患者が覚醒しているように見えるが、無言で、こわばり、動作がみられない。
・病変は、内側底部前頭前野、前方帯状回、前大脳動脈支配領域の内側前頭前野、吻側基底核。
・原因は、脳腫瘍、パーキンソン病、プリオン病などの変性疾患、クモ膜下出血など。
失外套症候群:apallish syndrome
・外套は大脳皮質のこと。
・大脳皮質の広範な損傷が原因。
・意識内容が著しく低下し、全身は痙性か硬直性で合目的的な動作は皆無となる。
・原因の多くは低酸素脳症、脳炎などによる広範な皮質障害。
・植物状態の原因の一つを表す言葉。
通過症候群:transit syndrome
・大脳の器質的障害をうけた意識障害患者が、回復する過程に呈する症候群。
・自発性喪失、感情不安定、健忘などが認められる可逆的な状態である。
・特定の病態を指さず、混乱を来しやすいため近年あまり使用されなくなっている。
追視の有無
・失外套症候群では注視、追視は出来ない。
・無言性無動症では注視、追視が可能。
・閉じ込め症候群では注視、追視が可能。
※某問題集には「失外套症候群は追視ができる」とあるが、
同系列の参考書には「できない」と明記されており、自己矛盾である。
植込みデバイス(ペースメーカー、ICD、CRT、CRT-D)
ペースメーカー (artificial cardiac pacemaker)
・心臓に電気刺激を与えて収縮させる医療機器。
・洞不全症候群、房室ブロック、心房細動などの徐脈性不整脈に対して適応がある。
・植込み型の恒久的なものと、体外式の一時的なものがある。
・右心房、右心室心尖部などにリードを留置する。
NBGコード(NASPE/BPEG Generic pacemaker code、国際ペースメーカーコード)
・NASPE:North America Society of Pacing and Electrophysiology (アメリカの団体)
・BPEG:British Pacing and Electrophysiology Group (イギリスの団体)
・いわゆる「VVI」や「DDD」などのペースメーカーのモードを表す。
・文字列の意味:1文字目「ペーシングする部位」(V, A, D, O)
2文字目「センシングする部位」(V, A, D, O)
3文字目「作動モード」(T, I, D, O)
4文字目「プログラミング機能」(R, C, M, P, O)
5文字目「抗頻拍機能」(P, S, D, O)
・1文字目と2文字目:「V:心室(Ventricle)」、「A:心房(Atrium)」
「D:心室+心房(Dual)」、「O:なし(None)」
・3文字目:「T:トリガーモード(Trigger)」、「I:抑制モード(Inhibit)」
「D:トリガー+抑制モード(Dual)」、「O:固定レートモード」
・4文字目:「R:レートレスポンス機能」、「C:コミュニケーション機能」
「M:マルチプログラミング機能」、「P:シンプルプログラミング機能」
「O:プログラミング機能なし」
・5文字目:「P:抗頻拍ペーシング機能」、「S:ショック機能」
「D:抗頻拍ペーシング+ショック機能」、「O:抗頻拍機能なし」
ICHDコード(Inter-Socity Comission for Heart Disease Resources code)
・3文字目まではNBGコードと同様。(ただし、1文字目に「O」はない)
・4文字目は「R:レートレスポンス機能」の表記のみで、5文字目はない。
・現在、デバイスの複雑化に伴い、NBGコードの方が一般的になっている。
各々の設定
・VVI:心室デマンド型ペーシング。心室の自発興奮があると抑制する。
・VVT:自発V波で直ぐに心室を刺激。
・VAT:自発A波で同期させて心室を刺激。
・VDD:心房同期心室抑制ペーシング。
自発A波を感知して、心室を収縮させ、自発V波には抑制をかける。
・AAI:自発A波で心房刺激を抑制。
・AAT:自発A波で直ぐに心房を刺激。
・AOO:固定レートで心房刺激。
・DAT:DADに同じ
・DAD:AAI+VAT。
・DDD:A-Vユニバーサルペーシング。AAI+VVI+VAT
・DDI:DVIで自発A波を抑制。
・DOO:固定レートで心房心室を順次刺激。
主流ペーシングモードと適応
・AAI:洞不全症候群で刺激伝導系が正常な人に適応がある。
・VVI:V波には抑制するが、A波は無視する設定。
規則的な心房収縮があると房室逆流が起こりうる。
徐脈が稀な人や、Afに合併した徐脈(房室ブロック)の人に適応がある。
・VDD:洞機能と房室伝導が正常なら、リード線1本で生理的ペーシングが可能。
洞結節の機能が正常な房室ブロックの人に適応がある。
・DDD:最も生理的な収縮に近い、理想的なモード。
殆どすべての除脈に対応できるが、リードが2本必要になる。
・DDI:房室伝導に異常が生じても生理的ペーシングを持続できる。
・VOO:手術時に行うペーシング。電気メスなどのノイズを拾わないため安全。
自脈がある場合は、VVIペーシングの方が安全。
植込型除細動器(ICD, Implantable Caldioverter Defibrillator)
・致死性不整脈を感知して直流電流を流し、除細動を行う。
・頻拍がペーシングで抑制可能なら、抗頻拍ペーシングで抑制することもできる。
心臓再同期療法(CRT, Cardiac Resynchronaizarion Therapy)
・心室の収縮が部位によって異なり、ポンプ機能が低下している場合に適応がある。
・完全左脚ブロックなどで、心臓同期障害が起こりうる。
・右室と左室から、など複数個所から刺激を行い、心筋の再同期を図る。
・両心室ペースメーカーを用いて心臓同期障害を治療する治療法である。
・通常のペースメーカーに左室を刺激するリードを追加することで可能となる。
CRT-D(CRT-Defibrillator、両室ペーシング機能付植込型除細動器)
・CRTに除細動機能を併せ持ったデバイス。
・ペースメーカー機能+CRT機能+除細動機能である。
カウンターショック(除細動とかカルディオバージョンとか)
カウンターショック
・致死性不整脈や頻拍性不整脈に対し、洞調律に戻す目的で直流通電する方法。
・致死性不整脈:心室細動(VF)、無脈性心室頻拍(pulseless VT)など
・頻拍性不整脈:心房細動(Af)、心房粗動(AFL)、発作性上室性頻拍(PSVT)、VTなど
・カウンターショックには「除細動」と「カルディオバージョン」の2つがある。
除細動の手段による分類
・電気的除細動:カウンターショックのこと。(特に非同期式電気的除細動)
・薬物的除細動:Ia群、Ic群、III群抗不整脈薬などによるリズムコントロール。
※電気的除細動のことは「DC (Direct Current; 直流)」と呼ばれることが多い。
心拍との同期の有無での分類
・非同期式が「(電気的)除細動 defibrillation」、同期式が「カルディオバージョン」
・「除細動」:同期しない。高エネルギーの通電(単相性で360J)を行う。
→一気に心筋を停止させ、不応期を生むことでリエントリーを防ぐ。
→致死性不整脈(脈がない不整脈)に非同期式の除細動を用いる。
→VF、VTに用いる(そもそも同期できないような波形である…)。
・「カルディオバージョン」:R波に同期して、R on Tを防ぐ。120-200Jで行う。
→意識がある人が多いので、麻酔を使う必要がある。
→AfなどのVF,VT以外の不整脈に用いる。
※心静止、無脈性電気活動(PEA)は「除細動」の適応外である。
→除細動効果が少なく、むしろ迷走神経を刺激して蘇生率を下げるため。
※T波は脱分極しやすく、R波が重なるとVFを起こすため、同期する必要がある。
単相性と二相性(除細動器の設定)
・単相性は直流電流によるもの、二相性は交流電流によるもの。
・昔は単相性だったが、二相性の方が低エネルギーで良い→心筋障害を抑えられる。
・単相性で360Jの通電でも、二相性だと120-200Jで良い。
・AEDにも単相性と二相性のものと2種類ある。