井蛙堂備忘録

医学的備忘録としてのブログ

慢性期意識障害(植物状態など)

遷延性意識障害persistent vegetative state(遷延性植物状態)

・覚醒しているが、外界に順応した反応が欠如している。

・意思の疎通であるところの精神活動を行っている徴候が認められない状態。

・基準:

  ①自発呼吸可

  ②全身状態良好

  ③糞尿失禁

  ④睡眠・覚醒のサイクルが保持

  ⑤寝たきり

  ⑥経管栄養

 上記、6項目が1か月-3か月以上認められるもの。

※「植物状態」という言葉は医学的には曖昧な表現である。 

日本救急医学会遷延性意識障害とは,疾病・外傷により種々の治療にもかかわらず,3か月以上にわたる,①自力移動不能,②自力摂食不能,③糞便失禁状態,④意味のある発語不能,⑤簡単な従命以上の意思疎通不能,⑥追視あるいは認識不能の6項目を満たす状態にあるものをいう(脳神経外科学会1976)。慣習的に植物状態ともいう」

 

最小意識状態:minimally conscious state

遷延性意識障害患者において、再現可能か持続性の点から限られているが、部分的に自己または周囲を認識しているという行動上の根拠が最小ではあるが確実にある状態。

 ①単純な指示に従う

 ②身振りや言葉で「Yes、No」を示す

 ③理解可能な発語

 ④刺激による喜怒哀楽の表出などが可能

・古くは不完全植物症と言われ、植物状態の一部とされていたが、予後などの観点から、今では別の概念として分かれている。

 

閉じ込め症候群:“locked-in”syndrome

四肢麻痺および無言を来した状態。

・障害経路は、両側錐体路および下部脳神経。

・障害部位は、被蓋を含まない腹側橋部、延髄。

・原因は、脳底動脈閉塞による橋梗塞などによる。

・随意に動かせる身体部位は眼球の上下運動と瞬きだけになる。

・あくまでも本症は運動障害であり、内的な意識はほぼ完全に保たれている。

・内的な意識が保たれているため、植物状態とは異なる。

 

無動性無言症:akinetic mutism

・患者が覚醒しているように見えるが、無言で、こわばり、動作がみられない。

・病変は、内側底部前頭前野、前方帯状回、前大脳動脈支配領域の内側前頭前野、吻側基底核

・原因は、脳腫瘍、パーキンソン病プリオン病などの変性疾患、クモ膜下出血など。

 

失外套症候群:apallish syndrome

・外套は大脳皮質のこと。

・大脳皮質の広範な損傷が原因。

・意識内容が著しく低下し、全身は痙性か硬直性で合目的的な動作は皆無となる。

・原因の多くは低酸素脳症、脳炎などによる広範な皮質障害。

・植物状態の原因の一つを表す言葉。

 

通過症候群transit syndrome

・大脳の器質的障害をうけた意識障害患者が、回復する過程に呈する症候群。

・自発性喪失、感情不安定、健忘などが認められる可逆的な状態である。

・特定の病態を指さず、混乱を来しやすいため近年あまり使用されなくなっている。

 

追視の有無

失外套症候群では注視、追視は出来ない

・無言性無動症では注視、追視が可能

・閉じ込め症候群では注視、追視が可能

※某問題集には「失外套症候群は追視ができる」とあるが、

 同系列の参考書には「できない」と明記されており、自己矛盾である。